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 多動や衝動性をコントロールする力を養う

 障害特性を正しく理解する


  自閉症スペクトラム障害であれば社会的なコミュニケーションや人との関わり方,ADHDであれば不注意,多動,衝動性などが特徴であることは多くの方が把握していると思いますが,障害のある人たちが日常生活で示す難しさを障害特性から理解し,教育的に関わるということは簡単なことではありません。障害特性の理解が不十分であれば,誤った方向への支援が行われたり,彼らが示す行動に腹が立って注意叱責が中心となったりしてしまう危険性があります。

  ここでは,特に理解が難しいADHDのある人たちの障害特性の理解と保護者や支援者の感情との関係を検討していきます。例えば,両足にギブスをはめて車いすで移動している人に対して『どうして歩かないんだ』と腹を立てる人はいないと思います。視覚障害のある人が杖をついて歩いていても『杖が邪魔だから何も持たずに歩けばいいのに』と怒る人もいないでしょう。“やる気がない”とか“さぼっている”とも考えないと思います。

  上記のような身体的な症状や障害は見た目にも分かりやすく,素直に理解し納得することができるからだと思います。

  しかし,ADHDのあるこどもがお勉強を嫌がったり,課題中に関係のない話をしてしまったりすると怒られてしまうことがあります。保護者や支援者も「どうしてがんばらないんだ」,「昨日はできたでしょう」,「何でこんなこともできないんだ」,「どうしてそんなことするんだ」と腹を立てることもあるかもしれません。

  ADHDあるこどもの難しい所は『正しい行動が分かっていてもできない』ことがあるという点であり,DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き)の診断基準では,以下の項目が含まれます。

しばしば指示に従えず,学業,用事,または職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる,また容易に脱線する)。
精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題,青年期後期および成人では報告書の作成,書類に漏れなく記入すること,長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける,嫌う,またはいやいや行う。
しばしばしゃべりすぎる。
しばしば質問が終わる前にだし抜いて答え始めてしまう(例:他の人達の言葉の続きを言ってしまう,会話で自分の番を待つことができない)。

  障害の特性として日常生活や授業中に様々な逸脱行動を示すことがありますが,それらの行動からADHDと診断を受けているわけです。つまり,ADHDという障害の特性として,少し難しそうな宿題を嫌がる,課題中に衝動的に声が出てしまう,ことがあっても当然だと考えることができます。これは足を怪我している人が歩くことができない,目が見えない人が見ることができないということと大きく違いはありません。特に発達障害は見た目で判断できないことが多いので,分かっているつもりでも本当の意味での正しい理解には至っていないことがあります。

  ADHDの障害特性を正しく理解し,心の底から納得することができれば,こどもが様々な困った行動を示しても腹が立つことはなくなります。足を怪我した人に対しては車いすの利用を指導したり,プログラムに沿ってリハビリを実施したりします。視覚障害のある人に対しては杖を用いた移動の仕方を練習したり,点字の練習をしたりして,生活の幅を拡げてQOLの向上を目指す取り組みを行うと思います。

  ADHDのある人たちに対しても,障害特性から様々な難しさを示すことを理解した上で,社会適応やQOLの向上に向けたスキルアップや環境調整を行っていかなければなりません。リハビリと同様に大変なこともありますが,『大変なことは分かっているけどがんばって』という気持ちで教育的な支援を行っていきます。

  ADHDのある人たちやその他の発達障害のあるこども達が示す行動に対して腹が立ってしまうことがあれば,それは障害特性の理解が不十分であると考えられます。または疲れているということもあるのではないでしょうか。人は疲れやストレスがたまると余裕をもって心を落ち着かせて行動することが難しくなります。そういう時には保護者や支援者はゆっくり休み,もう一度障害特性を確認して頭を整理しましょう。

(問題行動への巻き込まれに関しては『行動の原因を環境に求めることのメリット2』,『認知スキルを常に意識する』もご参照ください)




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