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 軽度知的障害やその他の発達障害のあるこどもの支援

 登校渋りの予防と対応 4 脳への刺激という視点


  
先述したように,いじめやこどもの尊厳を傷つけるような明確な理由がない限り,様々な学習の機会が得られる場として,『学校に行く』ことを優先して支援を行っています。

  ここでは,少し違う視点で不登校,登校渋りを考えていきます。多くの保護者はこどもの健やかな心身の成長,発達を望まれると思います。心の成長というのは,人の気持ちを理解したり,優しくしたり,自身の感情のコントロールをしたり,仲間と楽しく過ごしたり,失敗しても立ち直ったり,計画を立てて実行したり,やりたいことを見つけてがんばったり,と様々な事柄からお考えになると思います。

  心があるがどうかは神様しか分かりませんので,ここでいう心の成長,発達というのは,大部分が脳の成長,発達と言い換えることができます。

  子育ての大きな柱は,こどもの心身の発達に良い影響を与える環境を提供することであり,様々な経験を通して脳の発達を促すことであると考えることができます。多くの要因が脳の活動に影響を与えますが,安心できる状態で様々な刺激を受け,世界と関わり,人と関わり,協力したり楽しんだりがんばったりすることで,脳はより良く発達していくと考えられます。

  刺激や活動が非常に限られた生活,人と関わることが少ない生活,不安や恐怖や緊張が長期間継続する環境は,脳の発達にとって良くありません。脳の活動が弱まると,意欲がわかなかったり,感情のコントロールができず怒りやすくなったり,相手の気持ちを考えて配慮できなかったり,希望に向かって頑張ったりすることなどが難しくなる可能性があります。抑うつ的な気分になったり,考え方が偏ったり,身体的な不調につながることも考えられます。

  このような状態が続くと,何らかの診断を受けることがあります。こどもや保護者は診断されたことで「だから学校に行きにくかったのか」と思われることがありますが,
これは不登校の原因ではなく,不登校状態が長く続いた結果,診断を受けるような不調に陥った可能性があります

  「意欲が出るまで待ちましょう」と言われて待っていても,刺激の少ない環境で生活し,脳の活動が弱まると,更に意欲が出なくなってしまいます。これはこどものやる気や性格の問題ではありません。

  こどもの脳の発達を促すような多様な刺激が得られる環境として,いじめ等の明確な理由がなければ,学校が現段階では最良の環境であると考えられます。世間体や学業という面だけではなく,脳への多様な刺激,脳の発達という面で最良だと思います。しかし,不登校になり,ご家族の関りや専門家の協力を得て登校を促していくことが難しい場合も当然あります。その時は,できるだけ刺激が得られる生活を計画することが1つの方向性になります。

  他者と関わる,活動に取り組む,色々な刺激を受ける,ということを大切に考え,登校することが1つの目標となりますが,現段階で難しければ,フリースクールや適応指導教室,保健室や塾,公的な支援サービスが選択肢として挙げられます。できれば家を出て,人と関わる,決まった時間に決まった場所に行く,人の中に入ることを目標とします。集団が難しければ小集団や個別での関わりを考えることができますし,長い時間が難しければ,時間が限られた習い事でも良いと思います。

  家を出ることが難しければ,オンラインの家庭教師や訪問の相談サービスが利用できるかもしれません。部屋の中で一人で過ごすより,家の中であっても人と関わる方が刺激を受けられる可能性があります。

  家族以外と接することがどうしても難しければ,ご家族の時間が許す限り,こどもと関わる時間を取ることが望ましいです。家の近くが難しければ家から離れたスーパーに買い物に行ったり,公園に行ったり,散歩に行ったりなど。家にいるよりも外に出て行動するだけでも得られる刺激は多くなる可能性があります。決まった時間に決まった活動を行う,家事の手伝いをするなども良いです。そして可能であればできるだけたくさん話しましょう。

  人と話すということは脳に良い刺激を与えます。不登校の理由や心配していることでなくて良いので,新聞を開いてニュースについて話したり,映画やテレビを見て内容について話し合ったり,こどもや保護者が興味のあることについて話したり,思い出話をしたり,話題は何でも良いです。一緒に料理をしたりボードゲームを家族で行うのも良いと思います。

  こどもが部屋の中で一人で長時間過ごす,一日中ゲームやインターネットをしているという状況は避けなければなりません。色々なトラブルがあってショックを受け,落ち着くための期間が必要な時もありますが,できるだけ早く切り上げて,こどもが最も刺激を得られる環境を一緒に考えてあげて下さい。



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